相続人を確定する基本の手順

 

 相続が発生した際に最も重要な手続きの一つが「相続人の確定」です。この手続きを行うことで、遺産分割や相続税申告といった次のステップを進めることができます。

 しかし、相続人の確定を怠ると、後々の手続きでトラブルが生じる可能性があります。遺産分割は、①相続人の確定②遺産の範囲の確定③分割方法の確定という手順を経るためです。相続人の確定は、いわば遺産分割の前提問題となります。

 なお、遺産分割でのトラブルについて知りたい方は、「遺産分割協議を行う際によくあるトラブルとは?」の記事も参考にしてください。

 また、近年義務化された相続登記、相続税申告にも不可欠な手続きといえます。

 そこで、今回は、相続人を確定するための基本的な手順について解説します。

1 相続人とはどこまで含まれるか~基本事項の確認~

 相続人とは、亡くなった方(被相続人)の遺産を引き継ぐ権利を持つ人々です。相続人には、大きく分けて法定相続人指定相続人(遺言で指定された場合)がありますが、一般的には法定相続人が相続に関わります。

 法定相続人は、民法で定められた範囲の人物に限られます。以下の人々が相続人として認められます。

  • 配偶者(常に相続人として認められる)
  • 子ども(直系卑属、つまり子や孫)
  • (直系尊属、つまり父母や祖父母)
  • 兄弟姉妹(親がすでに亡くなっている場合)

 配偶者は必ず相続人になりますが、子どもや親、兄弟姉妹の相続順位や範囲を確認する必要があります。また、法定相続人には年齢や婚姻関係によって、相続分(分け前)が異なりますので、それらを把握することが大切です

2 相続人確定方法の概要:必要な手続きと法的背景

 相続人の確定は、戸籍謄本除籍謄本を使用して行います。これらの書類により、被相続人の親族関係を明確にし、正確な相続人を特定することができます。

⑴ 戸籍謄本・除籍謄本の収集

  • 戸籍謄本:被相続人の出生から死亡までの記録が記載されており、相続人となる可能性のある親族の情報を確認するために必要です。
  • 除籍謄本:被相続人が死亡した際に作成され、死亡届の記録が含まれます。これにより、被相続人の死亡の事実とその後の手続きを証明できます。

これらの書類を収集することで、相続人が誰であるのか、さらにその親族関係を正確に調査することができます。

戸籍謄本や除籍謄本は、一般的には被相続人が住んでいた市区町村の役所で取得できることが多いです。

⑵ 相続人の特定

 戸籍謄本をもとに、相続人を特定します。配偶者は必ず相続人となりますが、子どもや親、兄弟姉妹がいる場合は、相続権があるかどうかを確認し、必要な場合はその範囲を把握します。

⑶ 遺言書の確認

 遺言書が存在する場合、それに従って相続人が変更されることがあります。遺言書に記載された内容を確認し、遺言に従った相続が行われるよう手続きを進めます。遺言書が法的に有効であるかどうかの確認も重要です。

⑷ 法定相続人の範囲と順位の解説

 法定相続人には、一定の順序が定められています。相続人の範囲と順位を理解することは、遺産分割協議や相続税申告を進める上で非常に重要です。

① 配偶者の相続順位

 配偶者は、必ず相続人となります。配偶者の相続分は、他の相続人がいる場合、他の相続人との分け合いとなります。配偶者は、常に相続権を持っており、他の法定相続人がいない場合でも、単独で遺産を相続します。

② 子どもの相続順位

 子ども(直系卑属)は、相続の際に最も優先される法定相続人です。子どもが複数いる場合、その遺産は平等に分割されます。例えば、子どもが2人いる場合、遺産は2分の1ずつ分けられます。

③ 親(直系尊属)の相続順位

 子どもがいない場合、次に相続権があるのはです。親が生存している場合、親が相続人となります。ただし、親が亡くなっている場合は、さらに上の世代(祖父母)が相続人となることがあります。

④ 兄弟姉妹の相続順位

 もし、被相続人に子どもや親がいない場合、兄弟姉妹が相続人となります。兄弟姉妹が複数いる場合、その遺産は平等に分けられます。なお、兄弟姉妹の相続権は、親が存命であるか、他の法定相続人がいるかにより異なります。

⑸ まとめ

 相続人を確定することは、相続手続きの第一歩であり、前提の手続きです。

 相続人が誰であるかを確認するためには、戸籍謄本や除籍謄本を収集し、相続人の範囲と順位を把握する必要があります。配偶者や子ども、親、兄弟姉妹の相続権について理解を深め、円滑な遺産分割を行うために、相続人の確定は迅速に行うことが求められます。

 特殊な事例として、ー異母、異父兄弟が相続人になる場合の法定相続分ーの記事も参考にしてください。

3 戸籍謄本や除籍謄本を使った相続人調査の進め方

 以下では、相続人確定のための戸籍調査の進め方について、その概要を解説します。

⑴ 戸籍謄本収集の重要性

① 相続人を法的に特定する

 相続人を確定するためには、被相続人の家族関係を明確にする必要があります。

戸籍謄本や除籍謄本には、被相続人の出生から死亡までの全記録が記載されており、相続人となる人の確認に不可欠です。

具体的には、被相続人の戸籍謄本を死亡から出生まで順番に追っていくことによって、次の点を確認できます。

  • 配偶者の有無
  • 子ども(直系卑属)の有無
  • 親(直系尊属)が生存しているか
  • 兄弟姉妹の有無
  • 認知された非嫡出子(婚外子)の存在
  • 養子縁組の有無

これにより、相続権のある人を明確にすることができ、遺産分割協議や相続税申告の基盤が整います

② 慎重に戸籍調査をすべき場合

 相続手続きにおいて、相続人の範囲が不明確なまま進めると、後に新たな相続人が現れるなどしてトラブルが発生することがあります。特に、以下のようなケースでは、慎重に戸籍を調査する必要があります。

  • 婚姻歴が複数ある場合
  • 養子縁組をしている場合
  • 認知された子どもがいる場合
  • 長年音信不通の兄弟姉妹がいる場合

適切に戸籍を収集することで、こうしたリスクを回避し、スムーズな相続手続きを進めることができます。

4 戸籍謄本の取得方法と収集経路の解説

 相続人を確定するために必要な戸籍謄本や除籍謄本を取得するには、以下の手順を踏む必要があります。以下では、戸籍謄本の取得方法について詳細に説明します。

⑴. どの戸籍を取得すべきか

 相続人確定のために必要な戸籍は、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍です。具体的には、以下の戸籍が必要になります。

①被相続人の死亡が記載されている戸籍謄本

被相続人の婚姻や子の誕生が記載されている戸籍

被相続人の出生時の戸籍(出生から死亡までの連続した戸籍)

また、相続人が親や兄弟姉妹の場合は、被相続人の親や兄弟姉妹の関係を証明する戸籍も取得する必要があります。

 これらの戸籍を収集する時のポイントは、移転した戸籍を辿っていくことです。通常、戸籍は移った先に「●●から転入」と記載されているため、辿っていくためには、「●●」の市町村に存在する戸籍も取り寄せていくと、被相続人の出生した戸籍に辿りつくことができるはずです。

⑵ 戸籍の取得方法

 戸籍謄本や除籍謄本は、通常は、被相続人の死亡時点における本籍地のある市区町村役場で取得できます。取得方法には以下の3つがあります。

① 役所の窓口での取得 ※参考リンク⇒ 越谷市の場合

  1. 役所の戸籍課に直接出向き、請求する
  2. 身分証明書を持参し、申請書を記入
  3. 役所で即日発行可能な場合もある

② 郵送での請求    ※参考リンク⇒ 越谷市の場合

  1. 本籍地の役所に申請書を送付
  2. 手数料(小為替を利用します。)と返信用封筒を同封する
  3. 数日〜1週間程度で取得可能

迅速に手続きを進めるためには、戸籍の保管場所を事前に確認し、必要な戸籍を一括で取得するのがポイントです。

⑶ まとめ:被相続人の死亡から確定手続きまでの流れ

 被相続人が死亡した後、相続人を確定するまでの基本的な流れは以下の通りです。

  1. 死亡届の提出(死亡後7日以内)
  2. 被相続人の戸籍謄本・除籍謄本の取得
  3. 相続人の範囲と法定相続分の確認
  4. 遺言書の有無の確認
  5. 相続人全員で遺産分割協議の開始
  6. 相続登記や相続税申告の手続き

これらの手続きを適切に進めることで、スムーズに相続手続きを進めることができます。

⑷ まとめ

 相続人を確定するためには、戸籍謄本や除籍謄本の取得が不可欠です。新制度の導入により、相続登記の義務化や申告手続きの簡略化が進められています。当事務所では、相続人確定のサポートを行っておりますので、相続に関するお悩みがある場合はぜひご相談ください。

5 相続人確定における期限と期間

 相続人を確定することは、遺産分割や遺言執行手続をスムーズに進めるために不可欠です。

しかし、他の相続手続の中には期限が設けられており、相続人の確定が遅れると手続きが滞るだけでなく、法的な問題や追加費用が発生する可能性があります。

 ここでは、相続人確定に関する重要な期限や、法定相続人が未確定の場合の対応策、遺言書の有無による期間設定の違いについて詳しく解説します。

⑴ 期限が設けられている相続手続

 相続手続きの中には期限が設定されているものがあり、これを正しく把握し、期限内に手続きを完了することが重要です。

特に、相続人確定が遅れると、相続放棄や遺産分割、相続税申告などの手続きに影響を及ぼすため、注意が必要です。

1. 相続放棄・限定承認の期限:3か月以内

  • 期限:原則、被相続人が死亡したことを知った日から 3か月以内
  • 影響:この期間内に裁判所に相続放棄や限定承認の申立をしないと、自動的に「単純承認」(すべての遺産と負債を引き継ぐ)とみなされる
  • ポイント
    • 3か月以内に相続人を確定し、負債の有無を調査することが重要
    • 相続人が確定しない場合、家庭裁判所に 相続放棄期間の延長申請 をすることが可能

※ 相続放棄については、以下の記事も参考にしてください↓

リンク⇒ 相続に関わりたくないなら相続放棄?相続持分の譲渡も使えます

リンク⇒ 相続放棄の必要性と手順について|限定承認との違いも解説

2.  相続税申告の期限:10か月以内

  • 期限:被相続人の死亡から 10か月以内
  • 影響:期限を過ぎると延滞税や加算税が発生
  • ポイント
    • 相続人の確定が遅れると、相続財産の確定ができず、相続税申告に支障が出る
    • 期限内に申告できない場合、「申告期限延長の申請」を行うことができるが、理由が必要

3 相続登記の期限:3年以内(2024年4月1日以降義務化)

  • 期限:相続が発生した日から 3年以内
  • 影響:未登記のまま放置すると、法務局から督促が来るほか、過料(罰則)が科される可能性あり
  • ポイント
    • 遺産分割協議がまとまらない場合でも、法定相続人の名義で相続登記を行うことが可能

関連記事⇒相続手続きを効率化!法定相続情報証明制度の活用法と具体例

⑵ 法定相続人未確定時の仮対策

 相続手続きを進める中で、相続人が確定しないケースもあります。特に、被相続人の家族構成が複雑な場合や、戸籍が遠方に点在している場合は、相続人確定に時間がかかることがあります。このような場合に、どのような仮対策を講じるべきか解説します。

① 相続放棄の申立を先に行う。法定相続人調査を早急に開始する

  • 戸籍謄本・除籍謄本の収集に時間がかかることもあるため、裁判所は、戸籍が出揃っていない場合でも、相続放棄の申述申立書は先に受け取ってくれます。
  • 申立書提出後、ゆっくりと被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて調査し、相続人を確定するとよいです。

② 期限内に「法定相続分」に基づいた仮の相続税申告を行う

  • 相続人が確定しない場合でも、判明している法定相続人の範囲内で仮申告を行う。
  • 後から相続人が見つかった場合、修正申告を行うことが可能

③ 相続登記を単独で行う。

  相続人申告登記制度を利用して、相続人の確定未了、遺産分割未了の状況であっても、単独で登記申請をすることにより、過料の罰則を回避することが可能です。

⑶ まとめ

 相続人確定には、相続放棄・限定承認(3か月以内)、相続税申告(10か月以内)、相続登記(3年以内)など、複数の期限が関わります。相続人が未確定のままだと、これらの手続きを進められず、延滞税や罰則が発生するリスクがあります。特に、2024年以降の相続登記義務化により、相続人確定の迅速な対応が、これまでより求められるようになりました。

6 まとめ 相続人が誰なのか悩んだら専門家に相談しよう

 相続人の確定は、遺産分割や相続税申告、相続登記をスムーズに進めるための最も重要な第一歩です。相続人を確定しなければ、遺産の分割協議や法的手続きが滞り、最悪の場合、相続トラブルへと発展する可能性があります。

 本記事では、相続人の範囲と確定方法、戸籍謄本の取得手順、期限に関する注意点、法定相続人未確定時の対応策について詳しく解説しました。特に、2024年4月1日からの相続登記義務化により、相続登記の期限(3年以内)が設けられたため、迅速な対応がより一層求められるようになりました。

 相続人確定のプロセスは、戸籍謄本の収集や遺言書の確認など、時間を要する作業が多いため、早めに手続きを進めることが大切です。また、相続放棄や限定承認(3か月以内)、相続税申告(10か月以内)など、期限を意識した対応が必要になります。万が一、相続人が未確定のまま期限を迎える場合は、相続人申告登記制度や仮の相続税申告を活用することで、罰則を回避しながら手続きを進めることが可能です。

 相続手続きは、適切な知識と専門的なサポートが必要となる場面が多いため、不明点がある場合や手続きに不安がある場合は、専門家へ相談することをおすすめします。弊所では、相続人調査から相続登記、相続税申告までワンストップでサポートしておりますので、お困りの際はぜひご相談ください。

 

弁護士の的場崇樹(まとば たかき)
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