相続持分の譲渡とは?相続発生前と後の違いも解説します
亡くなられた方の財産の相続が発生した場合、受け取ることを希望するかしないかは、人や状況によってそれぞれです。時には、財産を相続したくないこともあるでしょう。また、不動産などの形ではなく現金で受け取りたい、遺産分割協議のトラブルに巻き込まれたくない、といった要望もあるかもしれません。相続をしないというと、負債が多い場合の「相続放棄」が有名ですが、「相続持分の譲渡」という方法を取ることもできるのをご存じでしょうか。
この記事では、「相続持ち分の譲渡」でできることから注意点、相続発生前と後の譲渡で異なるポイントまで、詳しく解説します。
目次
相続持分の譲渡とは?
相続持分の譲渡とは、一般に相続分の譲渡ともいい、相続人(遺産を相続する人)が、法的相続分を他者に譲ることを意味します。法的相続分とは、相続人が遺産を相続できる権利の割合のことで、例えば夫が亡くなった場合、妻に1/2を、二人の子どものうち息子に1/4、娘に1/4というように定められる割合です。この場合、相続人である息子は、自分が受け取る権利のある1/4の相続分を誰かに譲ることができます。譲受人(譲ってもらう側の人)は同じ相続人である妻や娘でも構いませんし、息子自身の妻や子どもなど、相続者以外の親族や第三者であっても可能です。他の相続人の同意を得る必要もありません。
譲渡に際して対価を得ても(有償の譲渡)、得なくても(無償の譲渡)問題はありません。譲る割合も自分の持ち分の1/4すべてでも、一部でも大丈夫です。ただし、譲渡相手や有償無償の違いにより、税金の支払い義務が生じる場合があります。注意点として、譲渡できるのは遺産そのものではなく、相続する割合であることを覚えておきましょう。例えば、財産の種類を指定して「自宅を息子に相続させる」という遺言がある場合、相続分の譲渡という形にすることができません。また、「譲渡が可能なのは遺産分割が成立する前まで」と、タイムリミットが決められている点も重要です。
必要な手続きの流れを解説
相続分の譲渡手続きに、裁判所での手続きは不要です。譲渡人と譲受人の合意があれば成立し、法的には口約束でも成立するとされますが、財産にかかわることですから書面を作成するのが望ましいでしょう。下記のような手続きがありますが、個人で行うのが不安な場合は信頼できる弁護士に相談すると安心です。
「相続分譲渡証明書」を作成する
相続分の譲渡を行った事実が証明できる「相続分譲渡証明書」を作成します。譲渡の条件をお互いにはっきりと確認し、譲渡する持ち分の割合や、有償無償の区別(有償の場合は金額も)と、負債がある場合の取り扱いも明記しておきましょう。印鑑は実印が望ましいとされています。
「相続分譲渡通知書」を作成して発送する
相続分の譲渡を行ったことがわかる「相続分譲渡通知書」を作成して、他の相続人宛に発送しましょう。発送は「配達証明付き内容証明郵便」が安心です。なお、第三者に相続分の譲渡が行われた場合は、他の相続人には「取戻権」という権利があり、譲受人が支払った対価などを償還することで持ち分を取り戻すことが可能です。譲渡が行われてから1か月以内という期限がありますが、譲受人の同意は必要ありません。
譲渡の効果をプラスとマイナスから解説
相続分の譲渡のプラスの効果には、下記の4点が挙げられるでしょう。
- 遺産分割協議に参加する必要がなくなり、遺産分割のトラブルに関わらずに済む
- 自分の譲りたい相手を選んで、相続分を譲渡できる
- 遺産分割には時間がかかりがちだが、有償の譲渡を行えば、対価として比較的早く金銭などを受け取れる
- 相続人が減ることで、遺産分割協議がスムーズに進みやすくなる
マイナスの効果として、相続財産に借金などの負債があった場合、債権者から請求が来ることがあります。基本的には遺産も負債も譲受人が引き継ぎますが、債権者から要求されたときには譲渡人にも返済の義務が生じるのです。債務がある場合などは、相続分の譲渡を行うより相続放棄を行うほうが良い場合もありますので、慎重に決断しましょう。
相続発生前の譲渡とは?発生後の譲渡とどう違う?
「相続発生」とは、人が亡くなって権利や義務、財産が誰かに引き継がれることです。相続分の譲渡は、一般的に相続発生後の譲渡として、ここまで解説してきたような流れで行われます。相続発生前の譲渡はできるのか、どのような手続きと注意点があるのかを解説しましょう。
相続発生前の譲渡とは?
相続発生前の譲渡とは、亡くなる前に本人が誰かに財産を譲渡することです。配偶者や子どもなどの法定相続人や、孫などの親族、第三者の場合もあるでしょう。生前贈与や死因贈与契約をする、生命保険や遺言代用信託を活用するなどの方法があります。
相続発生前の譲渡で気をつけるべき「特別受益の持ち戻し」とは?
特別受益とは、相続人の中で、亡くなった人から生前に他の相続人よりも多くの財産や利益を受けた場合を意味します。結婚したときにもらった多額のお祝いや、建ててもらった家、生前贈与で受けた財産なども含まれる点に注意が必要です。相続人同士で不公平が起こらないよう、「特別受益の持ち戻し」として、生前に多くもらった財産を死後に相続する財産と合算して遺産分割することが定められています。
相続発生前の譲渡のメリット
例えば、暦年贈与という方法で、相続税の基礎控除額を活用して譲受人の税負担を減らし、その分渡せる財産が増えるなどのメリットがあります。また、相続発生後の第三者への譲渡では「取戻権」で譲渡分を取り戻される可能性がありますが、亡くなったら贈与するという「死因贈与契約」を生前に行っておけば、確実に財産を遺せるでしょう。ただし、死因贈与の場合も、法定相続人が相続できると定められた割合の「遺留分」を侵害した場合は、超えた分を取り戻し請求される可能性があるため注意が必要です。
さらに、生前贈与で「持ち戻し免除」をした上で財産を贈与すれば、特別受益扱いによる遺産分割の割合減少を防いで、遺したい相手に多く財産を遺すことができます。
まとめ 相続持分の譲渡は、安心して行えるよう弁護士に相談してみることをおすすめします
亡くなった方の財産や負債などすべてを引き継ぐ相続は、財産の多い少ないにかかわらず、人生の大きな問題です。親族だからと口約束で済ませると、トラブルになってしまう可能性もあるでしょう。事前によく考えて決めたことであっても、亡くなった人の遺志が法的に通らない場合もあります。また、相続に関する法律は改正が重ねられているため、今日正しいことが明日も正解とは限りません。もし、少しでも不安があれば、しっかり対応してくれる弁護士に相談してみるのがオススメです。亡くなった人の遺志を尊重し、相続に関係する人々が満足できる方法を、法的な手続きを踏まえた上で提案してくれるでしょう。
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